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「家では日本語、学校では英語。聞いて分かっているようなのに、なかなか話し出さなくて…」「発音の練習をさせたほうがいいのかしら」。複数のことばに囲まれてお子さまを育てていると、こんなふうに気になることがありますよね。
そんな保護者の方の目を引く記事が、2026年10月13日に科学メディアのNautilusに掲載されました。見出しは「多言語のカギは口ではなく耳にある」という意味で、音のわずかな違いを聞き分ける力が高い人ほど、外国語の音もよく聞き分けられたという研究を紹介しています。
ただ、先にお伝えしておくと、この研究は子どもを対象にしたものとは紹介されておらず、「耳を鍛えれば語学が速く身につく」と確かめたものでもありません。この記事では、報道で分かっていることと、まだ分かっていないことを分けながら、ご家庭で参考にできるポイントをお話ししますね。
ニュースの概要
Nautilusの記事はKristen French氏の執筆で、心理学の学術誌「Journal of Experimental Psychology: General」に載った論文を取り上げています(Nautilusの記事)。論文の筆頭著者は、ロンドンにあるユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)教育研究所のKazuya Saito-van Poeteren氏で、記事によると英国・日本・スイスの研究者が加わっています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 報じた媒体 | Nautilus(2026年10月13日公開、Kristen French氏の執筆) |
| 論文の掲載誌 | Journal of Experimental Psychology: General 155巻10号(2026年) |
| 研究の対象 | 英語の母音を学ぶ日本人の英語学習者(年齢層は記事に明記なし) |
| 実験1 | オンラインで140人。3つの人工音から違う1つを選ぶ課題と、英語の音声を聞いて単語を答える課題 |
| 実験2 | 67人が脳画像の検査を受けながら、英単語のペアと、ことばではない音のペアが同じか違うかを判断 |
研究で使われたのは、「mad」と「mud」のように母音だけが違う英単語のペアです。カタカナにするとどちらも「マッド」になってしまうので、日本語を母語とする人には聞き分けが難しい組み合わせですよね。
Nautilusによると、結果はこうでした。人工音の周波数のわずかな違いを細かく聞き分けられる人ほど、英単語の母音の違いもよく聞き取れていました。関連の大きさは「中程度」で、2つの実験の両方で見られたと報じられています。研究の流れは図1にまとめました。

記事はSaito-van Poeteren氏の声明も紹介しています。多くの人は単語を覚えたり会話を聞いたりして外国語を学ぶけれど、言語学習の土台になる聴覚の力を鍛えることも役に立つかもしれない、という趣旨です。外国語教育は「もっと練習を」という発想にとどまらず、学習者一人ひとりの聴覚の特性に合わせて「耳」を育てる方向へ進むべきだ、とも述べたと伝えられています。
背景と解説
調べたのは「ことば以前」の聞く力
論文の題名には「domain-general auditory processing」という用語が入っています(論文のページ)。少し難しい言葉ですが、つまりことばに限らず、音そのものの細かな違いを捉える力ということです。英語が得意かどうかより手前にある、耳の「解像度」のようなものだと考えると分かりやすいかもしれません。
大事なのは、この力だけで決まるわけではないという点です。Nautilusは、留学に費やした時間や発音の訓練を受けた経験も有意な違いを生んでいたと伝えています。そのうえで、こうした経験の差を考慮に入れても、聞き分ける力との関連が残ったという結果でした。
もう一つ、意外に感じる方が多そうなのが音楽との関係です。記事によると、音楽の訓練を受けたかどうかは、英単語を聞き分ける力の主な予測要因ではなかったそうです。関係していたのは、実際に測った「小さな音の違いを聞き分ける力」のほうでした。
聞き分けが苦手な人の脳では何が起きていたのか
脳画像を使った実験2では、ことばではない音の聞き分けが苦手だった学習者ほど、英語の母音を聞くときに感覚運動野に頼る傾向が見られたと報じられています。感覚運動野は、体の動きの計画やフィードバックにかかわる場所です。この傾向は、ことばではない音を聞いているときには見られませんでした。
研究チームは、音の違いを聞き取るのが得意でない大人は、聞き慣れない音を母語の音に当てはめようとして、頭の中でこっそり「自分ならどう発音するか」をなぞっているのではないか、と考えているそうです。ただし、これは研究者の仮説で、今回の研究が直接示したわけではないとNautilusも書いています。記事によれば、同じ研究グループのこれまでの研究は行動面の関連を示すものが中心で、脳画像を使って調べたのは今回が最初期の試みの一つとのことです。
見出しと研究の中身には距離がある
ここで、少し立ち止まって考えたいんです。見出しには「多言語」とありますが、報じられた実験の中身は、日本人の英語学習者が英語の母音を聞き分けられるかどうかでした。複数の言語を同時に身につけていく子どもの育ちを追いかけた研究ではありません。
「言語を速く習得できるかもしれない」というくだりも、記事の表現は「かもしれない」にとどまっていて、習得の速さそのものを測ったとは紹介されていません。耳を鍛えるトレーニングで実際に上達するのかどうかも、研究者の発言は「役立つ可能性がある」という段階です。図2に、言えることと、まだ言えないことを整理しました。

注意:この記事の内容は、Nautilusの報道をもとにしています。参加者の年齢層や詳しい統計の数値は、報道からは確認できませんでした。「子どもの耳を鍛えればバイリンガルになれる」という結論は、今回の研究からは引き出せません。
IBの学校や海外で学ぶ子どもたちとの関係
複数のことばの中で育つ子どもは、決して少数ではありません。文部科学省の資料によると、2025年4月15日時点で、日本人学校には15,680人、補習授業校には21,047人が在籍しています(義務教育段階の長期滞在者のみの人数。文部科学省「海外で学ぶ日本の子供たち(2026)」)。現地校やインターナショナルスクールだけに通うお子さまは、この数に含まれていません。
国際バカロレア(IB)も、ことばを大切にしている教育プログラムです。IBの公式サイトは、初等教育プログラム(PYP)について、7歳から複数の言語を学ぶ機会があること、そして家庭で使うことばを含め、子ども・家族・地域のすべての言語を歓迎することを説明しています(IB公式:PYPのページ)。今回の研究はIBの学校を調べたものではありませんが、「話す」の前に「聞く」があるという視点は、多言語の環境で学ぶご家庭にとってヒントになるのではないでしょうか。
保護者への影響と今できる対応
今回のニュースが参考になりそうなのは、英語と日本語など複数のことばで子育てをしているご家庭、インターナショナルスクールやIB認定校に通うお子さまのいるご家庭、そして海外駐在中や帰国を控えたご家庭です。お子さまだけでなく、駐在先で現地のことばを学び直している保護者ご自身にも重なる話ですね。
ポイント:研究者が伝えているのは「練習量を増やすだけでなく、聞く力にも目を向けよう」ということです。「発音が苦手=口の動かし方の問題」と決めつけず、そもそも音の違いが聞こえているかな、という目で見てあげると、声かけが変わってきます。
報道の範囲を超えないように気をつけながら、ご家庭で意識できそうなことを挙げてみます。
- 「聞いているだけ」の時間を否定しない: 話し出すまでに時間がかかっても、聞いて音に慣れる時間は土台づくりの時間だと捉えてみましょう
- 発音を急いで直しすぎない: Nautilusは、新しい音を早い段階で発音させると、聞き取りの学習を妨げる可能性があるとした先行研究にもふれています。まずは聞き比べる機会を増やすのも一つの方法です
- 経験の積み重ねも大切にする: 留学の期間や発音の訓練も有意に関係していたと報じられています。「耳の良し悪しで決まる」という話ではありません
- 音楽の習い事に語学の効果を期待しすぎない: 今回の研究では、音楽の訓練は主な予測要因ではなかったとされています。音楽は音楽として楽しむ、という考え方で十分です
- 学校に言語サポートを聞いてみる: 家庭のことばをどう支えているか、聞く活動をどう取り入れているかは学校によって違います。面談や説明会で尋ねてみてくださいね
「うちの子は耳が良くないのかも」と心配になった方もいらっしゃるかもしれませんが、今回の研究は一人ひとりの力を診断するためのものではありません。聞き分ける力に個人差があることを知ったうえで、焦らずに聞く時間をつくってあげる。それくらいの受け止め方が、ちょうどいいと思うんです。
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まとめ
- 何が報じられたか: 2026年10月13日、Nautilusが「音のわずかな違いを聞き分けられる人ほど、英単語の母音の違いもよく聞き取れた」という研究を紹介しました
- 研究の規模: 対象は日本人の英語学習者で、オンラインの実験に140人、脳画像を使った実験に67人が参加したと報じられています
- 耳だけで決まるわけではない: 留学の期間や発音の訓練も有意に関係し、音楽の訓練は主な予測要因ではなかったとされています
- まだ言えないこと: 習得の速さや、子どもへの当てはまり、トレーニングの効果は、この研究からは分かりません
- ご家庭でできること: 話すことを急がせず、聞いて音に慣れる時間を大切にしながら、学校の言語サポートも確認しておきましょう
出典・参考リンク
- Nautilus: The Key to Multilingualism Lies in the Ears, Not the Mouth(2026年10月13日)
- Journal of Experimental Psychology: General: Individual differences in motor and auditory activation in second language speech learning: Roles of domain-general auditory processing(155巻10号、2026年)
- 国際バカロレア機構: Benefits of the PYP(2026年10月14日確認)
- 文部科学省: 海外で学ぶ日本の子供たち(2026)教育活動・参考資料集(在籍者数は2025年4月15日時点)


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